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- インタビュー
サンライズワールド クリエイターインタビュー 第24回
小説家 高千穂遙<後編>
サンライズ作品のキーパーソンとなったスタッフに、自身が関わった作品の思い出を伺うクリエイターインタビュー。今回は、テレビシリーズが放送開始40周年を迎えた『ダーティペア』の原作者である小説家の高千穂遙さんが登場。後編ではアニメ版『ダーティペア』各作品への関わりやワールドワイドに広がっていった作品への思いをうかがった。
――キャラクターデザイン以外で、高千穂さんが『ダーティペア』のテレビシリーズでサンライズにお願いしたことはありましたか。
高千穂 セリフに関してはきちんと小説に寄せて欲しいとお願いしていました。その結果、台本でも小説の感じはしっかりと再現してくれていましたね。テレビシリーズのアニメは制作自体が綱渡りみたいなものなんですよね。だから、そこにこちらから何かひと言でも口出しをしてNGが出てしまったらあっという間に毎週の放送ができなくなってしまうことも判っていまして。そうならないよう後は全部お任せということで、シナリオのチェックもしませんでした。アフレコ台本も届きはするものの目は通していませんでしたし、試写にも行ってないですね。何かあったとすれば、1度だけアフレコに行ったことくらいですね。だから、最初のテレビシリーズに関しては本当に何もしていないです。
――アニメ版のオリジナルのマスコットロボットのナンモの登場やストーリーに関してもお任せということですか。
高千穂 そうです。ストーリーに関しても監督とシナリオライターが話し合って作ったものですし、登場キャラクターなども全て監督の意向ですね。もう好きにやってくださいとお願いしました。テレビシリーズはそんな形で進めてもらいつつ、私がすごく関わったのは『ダーティペア』が劇場版になる時ですね。劇場版は時間的な制約のシワ寄せがテレビシリーズのようにはならないので、じゃあ、ガッツリと入らせてくださいということで。シナリオの内容はいじる気はなかったんですが、セリフの言いまわしは統一させたいからダイアローグは私が全部直しますと。当初は、監督とシナリオライターさんで作ってきたお話をセリフのところだけ変えるという話だったんですが、結局いくつかダイアローグの枠を超えて手を入れました。
――どのような所に手を入れたんですか。
高千穂 劇中の重要アイテムとしてワインが出てくるんですが、その設定が甘かったので、これはもうちゃんとそのワインの由来をきちんと作ろうとか。そういう手出しはしましたが、それ以外は多分何もしていません。もちろん、作画スタジオにも行っていません。その後、ダイアローグを担当していた関係で録音スタジオに行き、アフレコでは随分と口を出しました。それに対して、監督はちょっと納得されてなかったですね。
――アフレコのお話が出ましたが、アニメ版全般にわたって、ケイ役は頓宮恭子さん、ユリ役は島津冴子さんが担当されています。おふたりに関してはキャスティングには関わられたりされているんですか。
高千穂 『クラッシャージョウ』の時は声優にこだわってキャスティングは全部やらせてもらいましたが、『ダーティペア』は先ほども言ったとおりテレビシリーズなので、そこも基本的にはお任せです。頓宮さんと島津さんの声が届いて「これでどうですか?」と聞かれたので、「すごくいいじゃないですか」と言った程度で。それで終わりです。でも、おふたりのキャスティングは見事だと思っていて、さすがプロが選んだだけあったなと感心しました。劇場版では、プロモーションの関係で配給元の松竹さんから俳優の誰かを使って欲しいという話があったんですが、それは即お断りしました。私は役者さんが声の仕事をするにあたって、上手いとか下手を気にしてるのではなく、声優としての訓練をきちんと受けた方にお願いしたいという思いがあったからです。
――やはり、声優に関する部分ではこだわりたい気持ちはあるんですね。
高千穂 そういう意味では、『ダーティペア』のアニメ絡みでは、キャスティングにこだわったのは『ダーティペアFLASH』の方ですね。
――『ダーティペアFLASH(以下、FLASH)』は基本設定も含めて大幅に変更した作品だったわけですが、それに関しては監修などをされたのでしょうか。
高千穂 そうですね。最初は新たにシリーズを始めるにあたって、サンライズから主人公たちの年齢を上げたいという話があったんです。それは、『FLASH』の企画だけではなく、その前のOVA『ダーティペアの大勝負 ノーランディアの謎』の時にも見た目を大人っぽくして年齢を上げたいという話もありました。でも、それは嫌だったんです。少なくとも見た目の年齢を上げた『ダーティペア」に関しては、安彦さんの描くものでなければダメだというこだわりが私にはありまして。それ以外のものはいわゆる可愛らしいケイやユリでやってくれないと嫌なんです。そこは譲れないところなんです。だから、『FLASH』に関しては、年齢を上げるのではなく、逆に下げましょうと私の方から提案しました。それならこちらは問題ないとお伝えして。その後、年齢の下げ方などを含めては、キャラクターデザインの方が決めていった形です。それの方向性すごく良かったので、『FLASH』はとても納得しています。
――『FLASH』にはそういう経緯があったんですね。
高千穂 でも、その後に少し問題もありまして。先ほどの声優の話に戻るんですが、『FLASH』はキャストがなかなか決まらなかったんです。悩んだ結果、先方から、こちらに決めてくださいという話がきまして。そこで、私の方で持っていたアニメのソフトを画面を見ないで音だけ聞くということをして、いい声優さんがいないかを探したんです。その中で、耳に入った時に「この人だ」となって決めたのがユリ役の國府田マリ子さんでした。その後もケイ役の方はなかなか見つからない中で、サンライズのロボットアニメを観ていたら、バッチリの方がいたんです。それが松本梨香さんですね。松本さんがその時に演じていたのが少年役だったので「じゃあ、もうこの少年で行こう」ってなりまして。だからセリフを私の方で全部書き換えて、一人称も「俺」にしたんです。そうしたら、サンライズのプロデューサーが「これじゃあ、完全に男の子じゃないですか」と言ってきたんですが、「それでいいじゃん。それだからいいんだよ」と。そんな流れであのふたりのキャラのああいうセリフ使いが出来上がったんです。
――『FLASH』でも高千穂さんはダイアローグを担当されていますね。
高千穂 それは、他の作品と同じで監督が決めたストーリーからは変えず、セリフだけ整えただけです。口を出したことがあるとすれば、悪役の名前ですね。最初は「ワーデス」という名前だったんですが、これはやめようと。もう、ひと目で悪役とわかるんだから、名前もわかりやすくしようと。その結果「ワルデス」にしてもらって。私は、そういう名前の遊びみたいなものが大好きで。その後、第2シーズンをやることになって、監督が望月智充さんに代わることになり、望月さんから「僕はスペースアクションとかできないんですけど、いいですか?」という相談があったので、「学園ものでいいですよ」と伝えました。だから、もう作る人の自由なんですよ。作る人の感覚で1番いいものを作ってもらえればそれでいい。逆に最も嫌なのは原作そのままで映像化するというもので。OVAシリーズの時にどうしても1本だけ原作そのままでやりたいという提案があったので許可したんですが、いまいちよくなかったですからね。それ以降は、『ダーティペア』のアニメをやるんだったら、監督とシナリオライターがアニメ用に「これが一番いい」というものを作ってもらう前提でお願いしています。そもそも小説と映像作品では構成の仕方が違うので、小説をいちいちアニメ用に組み変えて作ってもらうよりは、ゼロから作ってもらった方がいいんです。その方が世界観も面白くなりますし、メカも動くと思うんですよ。それが僕の方針ですから。とにかく『ダーティペア』の映像作品というのは、本当に大胆に、原作のエッセンスだけを残してやるくらいでいいと思っています。
――そこが『ダーティペア』のアニメの大きなポイントではあるんですね。
高千穂 もちろん、原作を借りる以上は絶対に変えてはいけないところが間違いなくあるんですよ。でも、そこさえ変えなければあとは設定もストーリーも全部作っていいよというのが私の考え方なんです。原作至上主義で、アニメ化されて「原作とここが違う」、「あそこが違う」と言って見るのは精神的には全然良くないですからね。違っていても面白ければいいんじゃないかと。『ダーティペア』で大事なのは、ちょっと男っぽいケイとブリッ子のユリという組み合わせのふたりがとにかく暴れて、それで事件は解決するけど、もの凄い被害が出て最後は悲惨なことになる。もう、これだけです。だからムギの設定を大幅に変えても問題ないんです。太っていようが、小さくなろうが黒くて猫に似ていればいい。それが『ダーティペア』の全てですね。
――当時、アニメ化された『ダーティペア』をご覧になった時はどのような感想を持たれましたか。
高千穂 面白いなって思いましたよ。『クラッシャージョウ』の時は劇場版で2時間を越えちゃったわけですが、『ダーティペア』の第一話、あの短い時間によくまとめてくれたなと。あまり大きな話にせず、うまくまとまってできたんじゃないかと思いますね。当時のアニメーターさんたちが描き慣れている絵に近いキャラクターにしたおかげで、作画の質も保つことができたんだろうなとも思いましたね。
――アニメの『ダーティペア』シリーズを改めて振り返ってみて、思うことはありますか。
高千穂 アニメも最初は安彦さんの絵でやろうと思う部分はあったんですが、それは『クラッシャージョウ』の映画の中でやるのが限界で。そういう意味では、安彦さんの絵で『ダーティペア』をやれなかったことは、僕としては喉に引っかかったトゲみたいに残っている部分ではあります。安彦さんの絵でテレビシリーズというのは、当時の制作体制や作画の質という部分で断念せざるを得なかったのは残念でしたね。とは言え、テレビシリーズとしての当時の判断は間違っていなかったと思います。今でも、願わくば安彦さんの絵で動く『ダーティペア』を見てみたいなとは思いますね。
――『ダーティペア』のテレビシリーズが40周年を迎えたことに関しては、どのような感想をお持ちですか。
高千穂 とにかく、「みんな歳を食ったな」という思いが強いですね。実際に亡くなられている関係者の方もおられますし。ただ、40年経ってもこうやって関心を持ってもらえるというのはすごい作品だったんだなと思います。『ダーティペア』のアニメはあちこちにいろんなインパクトを与えたんだろうなと。男の子っぽい女の子とブリっ子の女の子がペアを組んで暴れるという構成は、その後の作品にどれくらいの影響を与えたのかということを考えると、やっぱりなかなかのものだったんだと思います。その一方で、原作小説に関して言えば、とにかくよく『ダーティペア』という作品を出版社が出してくれたなと思いますし、アニメの企画も持ってきてもらえて、そこからいろいろ広げられたことには感謝しています。それはもう、作家がひとりで何とかしようとしても出来ないことですからね。最初にSFマガジンに短編小説を掲載してもらったことから始まって、アニメ化に関してもいろいろとキャラクターについての要望なんかも全部受け入れてもらえたことも、それらが全部いい方向に行ってくれた。中でも本当に予想していなくて驚いたことにでは、アメリカにファンが出来たことですね。NASAの人とかに影響与えたり、『スタートレック』の中でネタとして使われたり。英語に翻訳されて、その後向こうのオリジナルのアメコミが発売もされていますし。この作品から出て来た「トラブルコンサルタント」という言葉が英語に翻訳されて浸透して、「トラコン」って言葉が「コスプレ」と同じように共通言語になったりと、ワールドワイドになったことが私としては印象深い部分ですね
――最後に高千穂さんからのアドバイスとして、今後アニメ業界に進みたいと思っている方へアドバイスをお願いします。
高千穂 これからアニメ業界を目指すのであれば、最新のデジタル技術をきちんと学ぶようにした方がいいと思います。現在のアニメ業界は、デジタル技術の力を借りていかないと作品自体を作っていくのが難しくなってきていると思うんです。アニメーターが足りないと言われていて、色々と予算もかさむ状況の中で、今アニメーションがどう作られていて、どのようにデジタル技術が使われているのか? そこはきちんと知っておかないといけないと思うんです。昔のようなアニメーションの作り方はできなくなっていて、アニメーターの技量で乗り越えられないところをどうデジタル技術に任せるかを事前に見通せないと1クールのアニメを作り上げるのさえ難しくなってしまう。そういうことを念頭に置いて業界を目指して欲しいですね。
高千穂遙(たかちほはるか)
1951年生まれ。愛知県出身。小説家、漫画原作者。スタジオぬえ所属。1977年、日本初の本格的スペース・オペラ『クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機』で小説家デビュー。代表作に『クラッシャージョウ』シリーズ『ダーティペア』シリーズなどがある。
・会期:2025年10月10日(金)~ 2025年11月3日(月・祝)
・会場:北千住マルイ 7F イベントスペース(東京都足立区千住3丁目92 ミルディスI 番館)
・主催:株式会社バンダイナムコフィルムワークス/株式会社エニー
・入場料: [一般・当日] 2,100円(税込)
10月26日(日)には高千穂遙さんのサイン会を実施!
下記期中に原作小説を購入の方先着100名に高千穂遙さんのサイン会参加券を配布いたします。
※詳細は「TVアニメ『ダーティペア』40周年記念展」特設ページ<https://www.sunrise-world.net/event/010.php>でご確認ください。